自分の肩口にある男の頭が重くて鬱陶しい。

邪魔だ、と振り払ってしまいたかったが、両腕を押さえ付けられて動けない。
自分の非力な肉体に、小さく舌打ちをした。

ぐり、と頭を肩に押しつけられる。地味に痛い。

文句のひとつでも言ってやりたかったが、触れた手が、頭が、微かに震えているような気がして、なにも言えなかった。


互いに何を言うでもなく、ただ淡々と夜は明けていく。
白み始めた空の色が、窓から部屋へと滲みだした。

「俺は、誰なんだ」

ようやく口を開いたと思ったら、随分と聞き慣れた質問だった。

はあ、と漏れそうになった溜め息のかわりに眉をひそめて、いつも通りの返答をする。

「お前は上条当麻だろォが」

「違う」
すぐさま返ってくる言葉。

「違うんだよ。
上条当麻は死んでしまった。
皆が知っている、皆を救った上条当麻は、もう、いないんだよ」

やはりいつも通りの反論に、堪え切れずに溜め息を吐く。返す言葉はもう決まっている。

「それでも俺は、お前しか知らねェよ」

ぴくり、男の体が揺れ動く。
顔は見えないが、多分目を見開いた後に、ほっとしたような表情をしていることだろう。

ふわり、と先程までかかっていた余分な重力が消える。
ぎしりとベッドの軋む音がして、体温も消えた。

「ありがとな」

柔らかな、安心しきった笑顔を浮かべて男は歩みだす。
ぱたん、と
静かにドアの閉まる音。






1人きりになった部屋にはもう、朝の日差しが満たされていた。





(わたしをすくったあなたを、ひていしないで)