暑い。 とにかく暑い。 紫外線云々ではなくその熱量だけで自身の肉を焼きそうな太陽が恨めしい。 ああ、暑い。 屋上は直射日光にさらされて人気はない。 蜃気楼。ゆらゆらと視界が揺れる。 暑い。 ああ、自分の黒髪が鬱陶しい。 このままでは脳髄がとろけてしまう、そんな気がした。 揺れる、揺れる、視界が揺れる。 思考もまた、ゆらゆら揺れて安定しない。 暑い。暑い。 蝉の声が飽和して反響する。 ふと、揺れる視界のなかに人影を見つけた。 そんなに距離はないはずなのに、影は蜃気楼に揺れておぼつかない。 人影は何をするでもなく、ただそこに佇んでいた。 自分もまた、ただその人影を見つめ続ける。 ゆら、 人影が、動いた。 そのままフェンスの方へ移動していく。 「ッ、おい、まてよ!」 ぞわり、背中に走った直感のままその影の腕を掴もうとする。 人影に触れた、その瞬間。 ぱあん、と何かが砕けるような音。 と、同時に先程まで曖昧だったシルエットがはっきりする。 少し焼けた肌。ほどよくついた筋肉。そして黒いツンツン頭。 「…ぁ」 思わず声が漏れて、掴んでいた腕から力が抜ける。 と、同時に屋上のフェンスから、彼の体が落下した。 酷くゆっくりと、スローモーションのような視界。 彼の唇が緩く動く。 「 」 伸ばした腕はもう届かない。 握り締めた手のひらは、体温によく似た大気を掴むばかりだった。 ああ、彼は死んでしまった。 夏の暑い日に置き去りの儘、死んでしまったのだ。 (インデックスを頼むよ、上条当麻) |