暗い、暗い場所にいた。
ぐるり、と周りを見回してみたがやはり何も見えなかった。

ここがどこなのかはわからなかったが、じっとしていても仕方ないので取り敢えず歩いてみることにした。

ぺたぺたと裸足の自分の足音が妙に響く。
ぺたぺたぺたぺた
ぺたぺたぺたぺた
ぴしゃん、

暫く歩いていたら、水溜まりを踏んでしまった。
不快に思って足を引く。

なんだ、と思って足元を見ると、そこには真っ赤な水溜まり。
血だ、と認識したとたんに鼻が鉄の匂いに犯される。




見てはいけない
見てはいけなかった、のに

血溜りの先に視線を流す。
そこには細く、白い少女の腕。

そのさらに奥にはもっと大量の肉塊が。
それがなんなのか、自分は知っている。
肉塊の中からちらほらと見える茶色の髪。物々しい軍用ゴーグル。

息があがる。呼吸が乱れる。
吸って吐くだけ、の簡単な作業が出来なくなる。酸素の足りない頭は回らない。
今まで散々見てきたそれを前に泣きそうになる自分がいた。

そう
忘れもしない
忘れるだなんて許されない


あれは、あの少女達は―――。


*


「大丈夫?一方通行」
ぱちり、と、目が覚めた。
薄ぼんやりとした月明かりが夜だということを告げてくる。

「打ち・・・とめ?」
逆光で表情は見えないが、震える声で心配しているのだとわかった。

「怖い夢でもみたの?ってミサカはミサカは聞いてみる」
ぎゅ、と力を入れられて、手を握られているのだと理解した。
手のひらから伝わる温度に酷く安心する。

質問に答えずにいると、もぞもぞと打ち止めがこちらのベッドに潜り込んできた。

「・・・なにしてンだ、クソガキ」
「今日は一緒に寝よう!ってミサカはミサカは大提案」
言いつつ問答無用でベッドの半分を陣取られる。



「・・・こうして寝れば、きっともう怖い夢なんてみないからね、」
おやすみなさい一方通行

言うだけ言うと、打ち止めは手を繋いだまますやすやと寝息を立て始めた。
はあ、とひとつだけため息をつく。


「、クソッたれ」


一言だけ自分に文句を言い、繋いだ手を一度ぎゅ、と握り返した。
そのまま目を瞑る。


視界は再び暗闇へと放り込まれたが、不思議と不快感はなかった。
どんな暗闇の中にいても、この小さな手のひらの温もりさえあれば
乗り越えられる、そんな気がした。


そのあとは一度も目を覚ますことなく、朝日が昇るまで眠り続けた。

/融解温度