こへ滝+綾部 流血表現注意 「まって、待ってください七松先輩」 体が重い。ぜいぜいと呼吸は荒く、心臓がじくりと痛んだ。追う背中は遠い。二年の差はこれほどのものかと歯噛みした。 一向に縮まらない距離に、思い通りに動かない足に、苛立ちながらなおも走る。それにしても、わたしの体はこんなにも重かっただろうか。私の足は、こんなにも鈍かっただろうか。 「ななまつ、せんぱ、」 必死の思いで手を伸ばす。一度、二度手は空を掻き、ようやく袖端を掴んだ。と思った次の瞬間、 びしゃり、と顔に掛かる生ぬるい液体。視界が赤く濁る。ぐしゃりと人の倒れる音。誰が倒れたかだなんて分かりきっている。 「ッ七松先輩!」 ぐんっ、と意識が浮上する。指先は明かりのない長屋の宙に伸びていた。ぜいぜいと息は荒い。首筋を伝う汗が、背中に滲む汗が、不快で仕方なかった。恐る恐る自分の顔に触れるとぬるり、と滑ったが、それは血ではなくて自分の汗だった。 夢だったのか、 ようやく理解して息を吐く。心臓がまだうるさかった。 「どうしたの」 もぞりと衣擦れの音がして、同室の男の動く気配がした。なんでもないと冷静を取り繕って言おうとして、声が詰まった。 「怖い夢でも、見たの」 酷い汗だよ、 タコだらけのごつごつとした手が頬を滑る。任務で居ない、あの人の無骨な手と重なって泣きそうだった。 「…滝、大丈夫。あの人は強いよ」 「、あぁ」 知っているさ、誰よりも それでも、あの赤色が目に焼き付いて離れないのだ。 /網膜に焼き付く色 |