「なんでだよ」 張り出された考査の順位表を睨みながら悪態を吐いてしまう程度には、腹が立っていた。理由はと言えばどれだけ予習をしても一向に上がる気配の無い自分の成績もそうだが、それよりも。 「なんであいつが一位なんだ!」 当然のように頂点に記されたその名前に、腹が立っていた。 伊賀崎孫兵。 ロマンチストの毒虫野郎。そのくせい組。そのくせ学年トップ。 自分はと言えば、年がら年中予習をしてるというのに未だには組。成績はよくて中の下。 努力している人間に負けるのならまだ納得がいく。だけど、なんであいつなんかに! 「おや、どうしたの?藤内」 そんな難しい顔をして 聞き覚えのある声に振り向けば、やっぱり。 「…孫兵」 「あ、順位表。出てたんだね」 孫兵は一位の字の横に並ぶ自分の名前を興味なさげに一瞥して、そのままずっと視線を下げていった。その目線を追って、目に入ったのは自分の名前。 「…っみ、見るなよ!」 今更意味はないとはわかりつつも自分の順位と名前を隠す。馬鹿にしたいのか!怒りと羞恥で顔が熱くなった。 「…なんで隠すの?」 孫兵はきょとんとした顔で聞いてくる。なんでって、そりゃおまえ、なんでって! 「は、恥ずかしいからに決まってるだろ!」 顔が熱い。耳が火事を起こしてるみたいだった。ああもういっそ馬鹿だと罵りやがれ! 「恥ずかしくなんかないよ」 「は?」 「藤内、前回より順位上がってる」 いっぱい勉強してるもんね、すごいね 更に顔が熱くなった。しれっとした顔でなんてこと言うんだこの野郎!ていうか、なんで前の俺の順位知ってるんだ! 「だって、すきなひとのことって沢山知っておきたいじゃない?」 噛み付くように言えば、孫兵はにっこりと笑ってそんなことをさらりと言った。 …ああそうだった、この学年トップの毒虫野郎はとんでもないロマンチストだった。 こんな奴に、適うか畜生! 熱くなるばかりの顔を覆って、ダッシュでそこから逃げ出した。 /恋の淵に落下せし、 title by NoaNoa. |