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幼い頃、打ち上げられた魚が苦しむ意味がわからなかった。


ねえちょうじ、どうしておさかなさんはこんなにくるしそうなんだ?くうきはみずのなかよりずうっとたくさんあるのに!

…おさかなさんはな、みずがなくっちゃあ、いきられないんだよ
さんそよりも、おみずのほうがだいじなの


幼いわたしはどうにも合点がいかなくて、ふうんと曖昧な返事をしてはくはくと空気を喰む魚を見つめていた。魚はやがて動かなくなった。


あの日理解出来なかった長次の言葉が、今のわたしにはわかる。
あの日の魚は長次だ。そして酸素がわたしであいつが水。地上は酸素で満ちあふれているのに、魚は水がなければ死ぬという。引き上げた魚は、水に恋い焦がれたままやがて死ぬだろう。



酸素じゃ魚を生かせない。
わたしじゃ、長次を生かせない。



世界は愛に満ちている

(それでもあなたは、あいつの愛が欲しいという)