ふと見ると、文次郎の腕のなかに黒い毛玉が埋まっていた。

「なんだそれは」
「猫。拾ったんだ」

そんな、どこぞの生物委員じゃあるまいし

じとりと蠢く黒い塊を見たら、ぱちり目が合った。すぐにぷい、とそっぽを向かれる。

「なんだ、可愛くないな」

思わず悪態を吐く。文次郎はそうか?と腑抜けた事を言いながら毛玉を撫でていた。にゃあ、と甘えたような声がした。

「どうせ飼えないんだから、また捨ててこい」
そもそもなんで拾ってきたんだ、そんな可愛げのない猫!

なんとなく面白くなくて、つい刺のある言い方をしてしまう。

「なんで。なんでかってそりゃあ」
おまえに似てると思ったんだよ


にゃあ、と猫はひとつ鳴いて、文次郎の腕のなかから飛び出した。あーあ、いっちまった、と残念そうに文次郎が呟く。
わたしは面喰らって動けないまま、猫が飛び出していった方を見つめていた。

「仙蔵」

文次郎に名前を呼ばれて振り返る。先程まで猫がいた場所をぽんぽんと叩いていた。来いということか。というか、わたしは猫の代わりか。

悔しかったので、手の置かれた場所を通り越してぺろり、と唇を舐めてやった。なんだ、猫のつもりかと笑われた。返事の代わりににゃあ、とひとつ鳴いてみせた。