みーんみんみんみん うだるような暑さの長屋で、ぼくと三郎は駄弁っていた。 風通しが悪くなるからと衝立も端に寄せてしまった部屋は、少しばかり広くなったような気がする。 みーんみんみんみん 蝉の声は止まない。 あのね雷蔵、この前ね町に出たときね金魚が道端で干からびていたんだよ。祭りの帰りにこどもが落としたんだね、きっと。 可哀相にね、あの日も大層暑かったから砂に焼かれて死んでしまったんだね。 ふうん、そう 適当な相槌をうってぼくはそれきり黙っていた。下手に喋ると口の中の水分まで奪われそう暑さなのだ。 どうでもいいね、と続く言葉を唾液と一緒に飲み込んだ。 ね、雷蔵 わたしたちこのままずうっと一緒に居れたらいいね、 三郎の話は脈絡がない。それもそのはずで、ぼくに話し掛けているような三郎の言葉は実は彼の大きな独り言だったりするのだ。 ぼくは返事をしない。 ジジジ、と呻くような音をたてて、蝉がぽとり、木から落ちた。 ぼくはどうにも喋る気が起きなくて、ひっくり返った蝉の姿をただぼんやりと見つめていた。三郎のほうも蝉、死んじゃったね、と呟いたきり黙っていた。 みーんみんみんみん 二人きりの空間で、蝉の声だけが忙しなく響く。 ね、三郎 きみさ、ほんとはさ、金魚も蝉もぼくのことも、どうだっていいんでしょ そう遠くはないいつか、ぼくたちが学園を離れて別々の道を歩むとき、きみはなんでもないようにぼくの皮を捨てて、すぐに誰とも知らない皮を被って歩いていくんだろうね。 でもね、捨てられたぼくの皮は何処にも行けずに道端で干からびた金魚みたいに哀れで、ひっくり返った蝉みたいに惨めな姿でそこに在り続けるんだよ。きみにはどうでもいいことだろうけどね。 金魚と蝉と、それからぼくの皮が道端に転がっているのを想像して、目を伏せた。 一緒に居れたらいいね、だなんて ばっかじゃないの、という言葉は汗と一緒に畳に落ちた。 /夏の死骸 |