※立花が死んでる
※カニバ表現有り








腐りかけの果実はやわらかく、潰せば芳醇な匂いがした。
ぐしゃりと潰れた蜜柑を指先でつつく。ふと、いつかの先輩の言葉を思い出した。


「それ、食べるんですか」
腐ってますよ
「腐ってはいない、腐りかけだ」
食べ物は、大抵腐りかけが美味いというものだ

彼の細くて綺麗な指先が、腐りかけの果実を口に運ぶのは大層グロテスクだったが、悪趣味ながらも美しさがそこにはあった。

悪食ですね、と嫌味を言えば、汁にまみれた指を舐めながらいつかお前にもわかるよ、と笑われた。


*


夜になって皆が寝静まった頃、長屋を抜け出して裏々山へと向う。山頂には土を掘り返した跡。先日死んだ立花仙蔵の墓だった。
墓といってもこれといった目印はなく、ただ死体が埋まっているだけの、簡素な穴だ。


持ってきた鋤で穴を掘り返す。ぐにゃり、と何かに当たったような感触がしてからは、手で土を掘り返していった。
暫くすると青白い腕が見えてきて、もう少し掘ると顔も見えた。つん、とした死臭が鼻を突く。もたげた腕は腐りかけで、ずるりとやたらにやわらかかった。


自分のものよりもうんと白い指先を口元へ運ぶ。ぐちゃりとした妙な食感。それは果実のように甘くはなかったが、確かに美味だった。
これは癖になりそうだ。


頭の中で先輩が、お前にもわかっただろう、と意地悪く笑った。



/なんでも腐りかけが美味いのさ