部屋に戻ると仙蔵が紅をひきおえたところだった。 「出掛けるのか」 「忍務でな」 どうやら女装の課題らしい。 ぱちん、貝の紅入れを閉じる音。 白い肌に赤い紅がよく栄えていた。 「なんだ、見惚れたのか?文次郎」 言って、にぃと笑った顔はいつもの仙蔵で、我にかえる。こんな奴に見惚れるなど、まだまだ鍛練が足りないようだ。 「では行ってくる」 艶やかな黒髪を翻し、仙蔵が立ち上がる。 あぁ、と適当に返事をしたらちょっとまて、と肩を掴まれた。 なんだ、と振り返れば唇に柔らかな感触。な、と声をあげれば紅色が弧を描く。 「まじないだよ」 わたしの居ぬ間に、悪い虫がつかないようにな 言って、くすくすと笑いながら仙蔵が部屋を出ていった。 まったく、なにがまじないだ、と唇を拭う。 拭った親指にはうっすらと紅が残っていた。 おまえと違っておれによってくる虫なぞおらんよ 思いつつも、指についた紅を拭う気になれないのだから重症だ。 |