「兄さま。なまえ、そうとう怒ってますよ」
「そうですか。でも残念、いまは忙しいのでねえ。彼女の相手は難しいかと」
ぐさりぐさりと刺さる視線に、気づかないわけがないだろう。それでもファンサービスを続ける俺に、Vが非難を含んだ目をよこす。心配するな、なまえの行動なんてわかりきったもんだから。俺がどれだけ無視を決め込んだところで、ちょっと構えばすぐに機嫌をよくしてしまう。単純なやつなのだ。そんなあいつの反応を見て楽しむ俺も、相当単純ではあるが。
「あ、カイト」
Vの声を辿れば、たしかにあの珍しい髪型が会場にあった。デュエリストが集まるパーティーだ。あいつがいてもおかしくない。俺は気に止めず、再び集まってきたファンにサービス用の笑顔をふりまいた。次々渡される色紙を受け取って、にこやかに言葉を交わして。
寄せては引いて、寄せては引いてのファンの波が落ち着いた頃。Vに、控えめに腕を引かれた。なんだと目を丸くすれば、言いにくそうに口ごもる。「どうしたんだよ」眉間にくっきりと皺を寄せたと同時に、耳に届いた聞き慣れた笑い声。驚いてふりかえった自分を、すこしだけ後悔した。
「カイトはダンスが上手ですねえ!」
「別に。それより、いつまで続けるんだ」
「まだまだ曲は終わりませんよ? もうすこし付き合ってくださいな」
「ったく、しょうがねえな」
そう思うなら、とっととその手を離しやがれ。
思わず顔がひきつって、喉が細く締めつけられる。楽しそうにくるくる回るなまえにも、正直腹がたって仕方ない。なんだってカイトの野郎なんかと。どうせならVを巻き込めばいいだろうに。いやそれより、あいつらは一体いつからあの状態で。
考えれば考えるほどに腹の底が沸騰する。ふと漏れた「あの野郎……」が、地を這うほど低いのも納得ものだ。
ただ、隣にいたVだけは、肩を竦めて苦く笑った。
「自業自得ですよ、兄さま」
(130821)