彩りあざやかな料理を前にしても、感想は一切なし。両手を合わせていただきます、無言の食事が始まった。なまえの期待はかくもあっさり砕かれたのだが、それで諦める彼女ではない。表情の変化をわずかも見逃すまいと、正面から食事風景を見続ける。ぴくり、震えた片眉に彼女の期待はふくらんだ。

「なにジロジロ見とんねん」

 食べにくいわアホウ。
 ケイタはうっとうしそうに眉を寄せただけだった。





「男心を掴むにはまず胃袋からだと思ったんですが、私の腕ではまだまだでした。なのでジュンゴさん、お料理教えてもらえませんか」
「ん、いいよ」
「ちょっと、ちょっと待ってよ。なんでジュンゴに頼んでんの」
「ジュンゴさんの茶碗蒸しは絶品だと聞いたので……だめですかね?」
「べつに、悪くはないけどぉ」

 不思議そうに首を傾げるなまえに、アイリはめいいっぱい顔を歪めた。女友達に分類されるだろう自分を差し置いて、ジュンゴに頼みこんだのがまず気に入らない。板前だからと言われても、そもそも彼が得意なのは茶碗蒸しだけ。その上ジュンゴ自らが、何度もケイタに茶碗蒸しを食べさせようとしている。今更なまえが手作りしたとこで、あの一匹狼が進んで口にするかと言えば。微妙なとこだろう。

「考え直した方がいいんじゃない?」
「で、でも他に方法も浮かびませんし」
「第一あいつがジュンゴの茶碗蒸し食べたとこなんてみたことないよ。ね、ジュンゴ」
「……ん」

 ジュンゴは言葉すくなに頷いた。心なしか寂しそうにも見えるのが心苦しい。けれど事実は事実だとわりきって、アイリはなまえに向き直る。だが、こちらは同じように項垂れた上で、エプロン着用と準備万端。よけいに直視しづらい状況だった。おろおろ視線をさ迷わせたのち、諦めてマフラーに口を埋める。

(……ん?)

 ふと、違和感を感じてアイリは首を傾げた。私の腕ではまだまだですとなまえは言った。ケイタはジュンゴの茶碗蒸しを一度も口にしたことがない。いつもつっけんどんで、人の施しを滅多に受けないあのケイタが、なまえの施しは受けている。
 ということはつまり。

「なんだ、けっこういい感じじゃん」

 納得したのはアイリ一人で、他二人はそろって首を傾げるだけ。説明してやる気にはなれず、アイリは長いため息をこぼした。



(DS2/130809)



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