(ネタバレあり)



 これは、言葉を選ぶ必要があるなあ。

「キャプテン、食事ができましたよ」

 帽子を目深に被った彼は、ちらりとも視線をよこさない。代わりに低い唸り声がひびく。肯定の「ああ」なのか、不機嫌ゆえの「ああ?」なのか。判定基準はきわどいところ。ならばあえて触れないのも一つの手だろう。私はなにも答えず踵を返した。

「待て」

 今度はあからさまな威圧だった。部屋の空気がずんと重くなる。めんどくさいなあ。ぼんやり浮かんだ非難は胸の内にしまって、愛想笑いも、気だるさも全部しまって。なるべく真面目な雰囲気を装ってふりかえる。

「どうしましたか」
「ここに持ってこい」
「食事ですか? わかりました。じゃあ今すぐ、」
「あと、わかってるだろうが」

 くまの酷い目が、ようやく帽子の下からのぞく。影になったそこはいっそ不気味だが、見慣れたもんである。次の言葉もなんとなく予想できてしまって、ぐっと唇をひき結んだ。

「パンなんて持ってきやがったら、ただじゃおかねェぞ」
「……大丈夫ですよ。昼間、上陸した際にお米買いだめたんで」

 でもねえキャプテン。食糧が切れたら切れたで、ありがたく在るものを食べて頂かないと。好き嫌いなんてそんな、子供のすること――。
 なんて小言を漏らせる相手ではなく。途端に機嫌がよくなった彼から視線を外し、今度こそ部屋を退出した。いっそ、船内で農作を始めようかと悩むのは、わりと真剣な問題である。



(op/130419)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -