ご近所さんの諸星くんは生意気きわまりない小学生だ。親御さんがとても偉い人らしく、おうちも立派な豪邸である。別に彼の功績でもないくせに、胸を張っては棘のある言葉で押さえつけようとする。諸星くんは、いやな小学生だ。

「だっせえの」

 ズボンの両ポケットに手を突っ込んで仁王立ち。私よか目線は低いくせに、歳の割りに立派な見下しかたである。私が地に膝をついてるせいでもあるのだが。

「なんのつもりかな諸星くん」
「さあね。あんたが勝手に転んだんだろ、俺に当たんなよ」
「急に足だしてきたのはきみでしょ。明らかに故意じゃない」
「は、こい!? ちげえよバカ!」

 じわりと諸星くんの顔が赤らんだ。なぜだ。しかし威勢は三割増しで、今にも噛みつきそうな剣幕になる。いつもの余裕はどうしたのやら。これではお得意の口八丁も出てこないだろう。
 いらいら眉をひそめて口も尖らせて。感情が素直にでるのはかわいらしい。いくら大人を気取っても、けっきょくはまだまだ子供である。差し伸べてくれる手も期待するだけ無駄だ。転ばされた事実には目を瞑ってあげよう。

「……あんたさ」
「あんたじゃなくてなまえお姉さん、でしょ。もっと敬って欲しいな」
「同じ未成年だろ、誰が敬うかよ」
「でも少なくともきみよりは年上だし」
「ババアって呼んでやろうか」
「嫌ですごめんなさい」

 立ち上がって仰々しく拒否すれば、ふんぞり返って雑なため息が一つ。これではどちらが年上か分かったもんじゃない。そろそろなけなしのプライドが手折られそうなので、早いとこ自宅へ戻って課題の続きに手をつけたい限りだ。コンビニにおやつを求めたのがまず間違いだった。

「じゃあね諸星くん、私もう帰らないと」
「……おい、なまえ」
「えっ、ああうん……なんですか」

 小学生に呼び捨てされるか。諸星くんの威圧感に申し分はない。もういっそ年齢なんて細かい拘りは捨ててしまおう。身分的な上下で世間全体を見回してみよう、それがいい。
 現実逃避していたら、指でちょいちょいと屈むよう催促がかかる。諦めて腰を曲げれば、ずっと近くなる色黒の肌。思った以上に迫りくるそれに驚いて、一瞬瞼を塞いでしまった。やわらかい感触が頬を食む。

「ガキだと思ってなめてんじゃねえぞ」

 おやおやそんな、諸星くん。お互い真っ赤じゃ締まりが悪いよ。



(名探偵/130227)




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