(男主)


「お前も、オバケか?」

 じっとり、警戒して睨みつけた。相手はおれより小さい女の子。でもこの美術館には何があるかわかったもんじゃない。青い人形、黒い腕だけおばけ、歩く首なしマネキン、笑う絵画。現実問題あり得ない話なのに、この美術館ではそれが起こった。だから目の前にいるこいつだって、もしかしたら幽霊なのかもしれなくて。

「ちがうよ」

 疑いで目が回りそうだった。そこにぽっと投げ込まれた否定で、うっかり目尻に水が浮かんだ。よかった。オバケじゃないんだ。こいつはおれと同じ、生きてる人間。嗚咽を上げそうになる唇を固く結んでから、安心を逃がすくらい大きなため息をこぼす。「なあんだ」わざとらしく、肩をすくめた。

「ほんとうに、人間なんだな?」
「うん」
「もしかして、気づいたらこの美術館にいたとか?」
「うん」
「まじかよ、おれもそうなんだ! なんなんだろうなあ、ここ。美術館の中にお化け屋敷が入ってるなんて、おじいさまたちは言ってなかったけど。お前、どう思う?」
「……わかんない」

 ぎゅっと、赤いスカートに皺が寄る。俯いたせいで前髪が影を作る。零れていないはずの涙が見えたような気がしてぎょっとした。
 そういえばこいつ、何歳くらいだろう。年下に見えるけど、すげえな、暗いところ怖くないのかな。全然震えてないし、さっきも声も上げずに一人で廊下走ってたし。なんて考えも、スカートの皺を見れば薄れてしまった。

 やっぱり、こいつも。

「よし、決めた」
「…?」
「これからは、おれがいっしょに行動してやる。でもって、ついでだからみんなの所に帰してやる。これでもう、オバケなんか全然こわくねーだろ、な!」

 半分は自分に言い聞かせて、もう半分は差し出した手のひらに乗せて。ひとりよりふたり、ふたりよりさんにん。人が集まるほど怖いものは消える。だから大丈夫。重なった手のひらのぬくもりに、消えそうな声で呟かれたありがとうに、おれの希望は実現へ向かう。

「絶対、いっしょに帰ろうな」

 それが、叶うかどうかは別として。



(lb/130114)


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