彼は、狼少年にでもなりたいのだろうか。

(いや、彼はすでに狼男だったか)

 揺れる尻尾に頬がゆるんで、次いで肩も震えてしまう。「あァ?」不機嫌一色でふりかえれば、頭上の耳がぴこりと揺れる。巨大な体躯はひとまずおいて、ずいぶんと、可愛らしいものだ。

「ジャブラ、おいでおいで」
「ふざけんなよテメエ、おれは狼だっつってんだろうが」
「狼だって犬の一種なんじゃないの?」
「知らねェよ。小難しい話ならカリファにでもしやがれ」
「わたしも小難しい話は苦手だよ。だからジャブラ、とりあえずお手」
「とりあえずの意味がわからねェ!」

 麒麟になったカクを彼は笑ったが、別に麒麟も狼も豹だって、みんな動物には変わりない。おまけに、狂暴な野生の性とやらを見ないふりすれば、共通して可愛い存在にしかならないのだから。カッカする必要はないんじゃなかろうか。

「よしよし」
「お前な、あんまなめてると痛い目みるぞ」
「ぱくりと一口で食べられちゃうとか?」
「ああ、そうだなァ」

 顎を撫でてた手を、やわらかい肉球がつつみこむ。けれど力に加減はない。肉球というクッションが全く役目を果たさないせいで、手首がみしりと悲鳴をあげた。
 視線で解放を訴えるも、ジャブラはただ、舌舐めずりをした。獰猛な肉食獣の光が、黒い目に宿る。

「色んな意味で、ぱくり、だなァ」

 嘘つきで、怒りっぽくて、長官にも並びそうな馬鹿加減であるが。ジャブラは立派に、鋭い牙を隠してる。



(op/130226)



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -