(ペンギン)
「船長はきっと、ベポが好きなんだ」
真面目くさった顔でいう、仲間の額に手をあてた。体温は至って平常、なんだろうか。いつもを知らないからわからない。「だいじょうぶか」「わたしは真面目だよ」いまいち噛み合わない会話に眉を下げて、そろりそろりと手を離した。すこし湿ったのか、空気に触れた手が冷たくなる。
「間違ってねェだろうが、なんか違うと思うぞそれ」
「どこらへんが?」
「あー……その好きはたぶん、おれがシャチを好きってのと同じだろうな」
うわ、自分で言ってて寒気がする。おれたちはハートの海賊団だが、別に愛を示す集団じゃない。いやまあ、わりと仲間内で和気あいあいとしてるから、あたたかいハートの持ち主と名乗れなくもないが、いやしかし云云。
せっかく投げてやったフォローのはずなのに、なまえは一度瞬いてさっと顔色を変えた。病人よろしく青白い上になんだか泣きそうだ。うん、予想はついた。こいつは更に酷い勘違いをしている。いっそ、おれが泣きたいくらいだ。「わたし、」じわりと、なまえの目が揺らいだ。
「わたしだって、ペンギンのこと好きなのに!」
「え、」
「シャチに負けたァ!」
うわあん、なんて。馬鹿丸出しで駆け出した背中をただただ見送る。半開きの口は氷のように固まった。ちょっと待てよ、それはどっちの好きなんだ。
(op/130103)