(ジャーファル)
ジャーファルが心配そうに私の顔を覗き込む。反射で見えない方へ顔を逸らせば、場の空気がぴりりと尖った。でも、顔を突き合わす気にはなれなかった。はあ、とため息が耳につく。
「黙っていてもわからないでしょう」
渡された膝掛けをぎゅう、と握りしめる。きっと呆れてるんだろうな。お前は幾つになったんだとか、今さら我が儘だなんてとか、分別もつかないのか、とか。いつもシンに向けるような文句の羅列が、彼の頭を占めてるに違いない。
それでも口で責めてこないのは、きっと私が口を開かないから。私の言い分をきちんと待ってくれている。彼は、よく出来た「おとな」だ。
「ジャーファル」
「はい、どうしました」
前にしゃがんだ彼の裾を握りしめる。宥める彼の声は昔より低くて、掠れていて。不変なんてあり得ないと分かっているけれど。
裾から手を放して、カフィーヤ越しの首にゆるゆると腕を回す。ぎゅうっと、強くすがれば彼は一瞬呆けた気がした。
「少しだけでいいから、お願い」
「……今日はずいぶんと、甘えん坊ですねえ」
「ふふ、可愛いでしょ」
「仕事に憚りを見せなければね」
それでも優しく背中を叩いてくれる彼の手は、これ以上を追及してはこなかった。私がまだまだ子供だと、再認識したに違いない。
(121010)