(ジャーファル)


 マスルールの固い胸板に背中を預け、たくましい足の間に座る。肌がやわらかくない欠点は、シンのような暖かさで緩和される。

「マスルール、私眠くなってきました」
「そうか」
「でもまだお仕事残ってるんですよねえ。休憩もあと少しで終わりです」
「そうか」
「でも眠いなあ」

 んー、と両手両足を伸ばして脱力。加えて、いつの間にか撫でてくれていたマスルールの手に、とろとろと思考が鈍っていく。このまま眠れれば、なんて幸せだろう。
 体の向きをもぞりと整えて、完璧に彼にもたれかかる体勢をとった。あたたかい、太陽のにおいが香った。

「マスルール、このままベッドに」
「入るのは就業時間が過ぎてからにしましょうね。それまでにちゃっちゃと仕事を終わらせてくれませんか」
「え」
「マスルール。なまえを執務室まで運んで下さい」
「はい」

 ひょいと体が浮いた、かと思えばそれは見事な俵担ぎ。そのままのしのしと歩き出すマスルールの肩の上から、数歩離れた所に控える彼を見つけた。
 相も変わらずイライラしていらっしゃる。

「酷いじゃないですか、ジャーファル。私の安眠を妨害するなんて」
「残業とどちらがお好みか、吟味してあげた結果ですよ。すこしは感謝なさい」
「なめてもらっては困ります。もう残業するほどの量は残してません」
「あなたは有能で助かります。そんなわけで先ほどそちらに、新しいものを追加しておきました」

 にっこり、笑っただけなのに。ジャーファルの気迫に気圧されそうになる。思わず上がりそうになった驚きを飲み込んで、やっぱり酷い、と呟いてやる。当然聞きつけたジャーファルは、かつかつと私たちに近寄った。それから再び、にっこりと。

「あなたを頼りにしてるんです。ね、お願いしましたよ、私の可愛いなまえ」

 首をすこし傾げて、頭を撫でるおまけ付き。私がそうされると弱いのを知っての行為なのだから、ジャーファルはとてもずる賢い。熱くなった顔のまま、照れ隠しにマスルールにしがみつく。宥めるように、大きな手が背中をたたいた。


(121004)


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -