「ぼくはときどき、きみの考えてることがわからない」
「タギーは青砥のことしかわからないでしょ」

 彼女は比較的無口な子だった。同い年の女の子がぺちゃくちゃ話してる横で、口を結んでぼんやりしている。けれど意見を求められたら、頷くなり返答するなりで応じてくれる。ただ、あんまり笑わない。愛想笑いってものを知らようだった。

「もう一回言っておくね。わたし、桃山プレデターに入ろうと思う」

 でもただ物静かな子、っていうわけではなくて、彼女はサッカーが好きらしい。特にディフェンス。相手がキープしてるボールを猟犬のように追いかけて、ガードしてチャージして、時には小技を使って奪い取る。その瞬間だけ、小さな微笑みを浮かべるのだ。ポジションは違えど、女子版青砥だと、思わずにいられなかった。

「急にどうして」
「桃山プレデターが練習してるの、いつもうちの近所なんだ」
「近いからって理由だけで入るってこと? そんないい加減な決め方で大丈夫か?」
「まじめに選んだよ。わたし、青砥といっしょにプレイしたいの」

 そこまで言われてはっとする。現在開催されてるサッカー大会。川原ヘヴンリーが次にあたるのは、桃山プレデターだ。
 青砥が所属するヘヴンリーは女子の所属をよしとしない。だから彼女は他のチームを探す片手間、川原で練習するぼくらと一緒にいた。何かを考えている瞬間はよく見かけたけれど、まさかこんな結論を出したなんて。

「まあ、きみがそうしたいなら、ぼくは止めないが」
「わたし、タギーともいっしょにやりたい」
「……ここで良かったら相手になるぞ」

 彼女は口をつぐんで首をふった。もちろん横に。ぼくはもう、ヘヴンリーに戻る気はない。彼女や青砥はそれを知ってるくせに、しつこくボールと言葉を蹴り込んできた。サッカーやめちゃだめ、なんて。
 足でボールをこねながら、まっすぐな目がぼくを捕らえる。「あのね」こんなにしゃべる彼女は珍しい。ちょん、と爪先がボールを蹴り出す。

「桃山プレデターって、メンバーが足りないんだって。フィールドプレイヤー一人と、ゴールキーパー」
「え? でも試合は十一人で出てるよな」
「五年生が手伝ってくれてるらしいよ。だから、ずっと一緒にやるわけにはいかないって、コーチが言ってた。だから、タギー」

 ころころ、とん。ボールが足にぶつかる。夕陽に照らされたそれは、赤く、燃えているように見えた。蹴り出した彼女の意思を、色濃く映しているのかもしれない。
 居心地が悪い。一度折れたぼくに、彼女の視線は強すぎる。そらすだけじゃ足りなくて、思いきり、彼女に背を向けた。わずかに足を掠めたボールは、反転した勢いで、ゴールネットを揺らした。

「ぼく、そろそろバスケの練習行かないと」

 そっか、と悲しそうな声が頷いた。まるでぼくが、悪者になった気分だった。


愛するだけでは世界が遠い

(120614)


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