※ネタバレあり






















「おれ、スペイン行くから」

 なんの前触れもなく、青砥は留学を決めた。いや、予兆はあったかもしれない。ただわたしが気づかなかっただけで。
 かわいらしいボーイソプラノは、いつも通りの仏頂面。何を考えてるのかなんて、数年の付き合いを経たいまもわからない。

「中学は? 行かないの、どうするの?」

 学生の本分は勉強だと、先生は言う。けれどもう少し先になれば、スポーツ推薦、なんて特別枠が試験には付いてくるくらいだ。つまりスポーツと勉強は、秤にかけられるもの。傾いた方を自由にとっても怒られない。

「あっちで通う」
「高校は?」
「それもあっち」
「大学は」
「決めてない」

 とはいえ、その頃になって日本に戻って来るはずがない。もう、進学しないと言うことか。その頃には、サッカーのプロになってるとでも言いたいのか。
 わたしはせいぜい学校で学んだものを、筆記で先生方に示すだけ。青砥はきっと、学校で学ばなかったスポーツを世界に示すのだろう。
 まったく、別次元にもほどがある。

「わかった、がんばってきてね。青砥がテレビに映るの楽しみにしてるから」

 引き止めそうになる両手を、背中に隠す。人の夢を壊す度胸を、わたしは持ち合わせてない。無駄に喚いても、苦しくなるのは自分自身だ。だったらもう、うそでも笑うしかない。
 代わりに、青砥の眉間に皺がよった。「おまえは、」何かを口ごもって、一瞬だけ俯く。どうしたのだと手を伸ばしたら、彼はふわりと顔をあげて、色素の薄い瞳でわたしを見つめた。

「おまえは、待ってるだけでいいから」
「うん?」
「おれが、絶対迎えにくる」

 いつになるかもわからない、そんな話を信じろと。彼は本気で言っているのか。あきれた、つられて本気で笑ってしまう。
 だから青砥はますます不満げな顔になるけれど、それで十分。彼の笑顔が似合うのは、やっぱりフィールドの上なのだから。

「ありがとう、楽しみにしてる」


空を泳ぐ夢をみた

(120614)


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