これのつづき








 菊池と同時期に入ったみょうじは、俺を怖がってる、と思う。俺が挨拶すると飛び上がるし、仕事に手を貸そうとしたらかなり必死に首をふられるし。小動物を連想させる怯え方、といえば可愛らしいが、その恐怖の眼差しを向けられる俺はちょっと悲しかったりする。

「それは間違いなく、鈴木さんの気のせいですよ」
「そう言い切る根拠は?」
「えっ! えっと、ですね……ごめんなさい」
「お前、ほんとに謝り癖治らないな」

 菊池はすこしはにかんで頭をかいた。誉めたわけではないが、この言葉を否定的に取らなくなっただけでも進歩だろう。頭を撫でると、菊池の顔はますます明るくなる。みょうじもこれくらい懐いてくれればなあ。撫でる手は止めずにため息をこぼした。

「あの、理由はともかく、みょうじさんが鈴木さんを怖がってるのは絶対に違うんです」
「お前だって、俺を前にしたみょうじを見たことあるだろ? あれはどう見てもビビってる」
「で、でもみょうじさんってほら、基本的に誰が話しかけてもビクビクしてますし!」
「俺の時は格段にだよ」

 いくら立派な調教師と言えど、小型対象はせいぜいトイプードルがいいとこだ。小型犬より小さい動物の相手なんてしたことがないし、言うことを聞かせる自信もない。いや、彼女は人間だし、犬ほど小さい体ってわけでもないってのは分かってる。あくまで、精神的な話。

「どうしたもんかなあ」

 せっかく、これからを共にする仲間になったのだ。信頼関係を築きたいと思うのは、誰だって同じだろう。
 しかし可能性がないわけではない。万が一にでも菊池の言うことが正しければ、俺は彼女との距離を縮められる。要は、根気よく付き合っていけという話なのだから。

「お役に立てなくてごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだよ。まあ、俺も諦めずになんとかしてみるさ。なにかあったら、フォロー頼むぞ」
「……はい!」

 ほっと息つく菊池は、本当にやさしいやつだと思う。自分の話でもないのに、ここまで親身にあいつと俺を繋ごうとするのだから。そういえばみょうじも、菊池と話すときは妙に楽しそうな気がする。

(もしかして、なあ)

 同期だから、似た空気を持つもの同士だから。もっともな理由は次々と浮かぶが、あまり納得のいかない自分に、つい首を傾げた。


不完をつづる

(120527)


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