「鈴木鈴木鈴木っ、あたし今日もがんばったよ! なんと鈴木にいいとこ見せるために芸もいっしょーけんめーやっちゃった! ねえ鈴木、あたし偉い偉いっ?」

 トイトイは今日も鈴木さんにべったりだ。短いしっぽを素早くふって、彼の周りをぐるぐる走る。鈴木さんはちょっと呆れ気味だけど、あの表情が向けられるだけでも羨ましい。トイトイのちょっぴり激しい自己主張は、ちょっぴり尊敬ものだと思う。わたしなんて、ろくに声もかけられないのに。

「いいなあ……」
「なにが?」
「うわっ、き、きく、きちくっ!」
「ごめん、おれ鬼畜じゃなくて菊池!」
「ご、ごめん」
「いや、おれも脅かしてごめんね。こんな所で何を……ってああ、もしかして鈴木さん?」

 図星を突かれて、ぎゅっと手元のファイルを抱え込む。
 ヤツドキサーカスに入って間もないわたしは、雑用係としてテントを渡るのが主な仕事だ。そして現在進行形で、今後のスケジュール表を配っていた。当然、全員に渡す必要がある。予定は個々でも把握しておかないと、後々の全体行動に支障をきたす。チームプレーが要されるこの現場では、尚のこと。それは、重々承知の上なのだが。

 回覧板にしろ、確認事項にしろ、伝達系の仕事で必ずぶつかるのは、「鈴木さんとの接触」という壁だった。同期で歳の近い菊池くんは、それをよく知っている。

「おれが渡して来ようか、その紙」
「え、えっと」
「みょうじさん、まだ配らなきゃいけない人たくさんいるでしょ? どうする?」

 なんて、一応訊く体勢はとるけれど、彼はわたしの答えを知っている。毎度恒例の話なのだ。それでも彼はこうやって、然り気無く背中を押してくれる。自分で行きたいでしょ、と笑う目に、思わず苦笑してしまった。

「だいじょうぶ。わたし、自分で行きたい」
「そっか。うん、邪魔してごめん。がんばって」
「ありがとう」

 人のいい笑顔を背に受けて、わたしは一歩踏み出した。ただでさえ少ない機会なのだから、生かさないと後悔するに決まってる。
 未だ賑やかな二人を見て、もう一度ファイルを抱え直す。元気な片割れは羨むだけでなく見習うべきだと、わたしも大きく息を吸った。

「あのっ、鈴木さん!」


狼煙をあげる

(120527)


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