単調なリズムで脈打つそこから耳を離すと、彼は相変わらずの仏頂面でわたしを見下ろしていた。
 顔色に変化が出るでもなし、嫌がるわけでもなし。ただ単純に、純粋に。不思議そうな色が瞳に浮かび上がっていた。

「満足か」
「とっても」
「変わった嗜好だな」
「心音を聞いて安心するのは、人間誰しも同じはずですよ。バダップさんもやってみます?」

 上体を起こして、腕を広げる。ほんの少しの恥じらいは知らないふりして、迎え入れる準備は万端だと胸を張る。
 つまらないプライドは捨てた。わたしだって、心を許した相手に触れたいと思うのだ。

「いや、遠慮しておく」

 けれどバダップさんは、わたしと違うらしかった。
 一度まじまじとこちらを眺めてから、目を伏せて軽く首をふる。棘はないが、きっぱりとした否定。だから、そうですか、と何でもない顔をするしかなかった。本当は、心が軽く折れそうになっているのに。

「そんな顔をするな」
「え、なにか変な顔してますか?」
「……俺はただ、こっちの方が安心するというだけ話なんだが」

 ぐらり、重心が傾いて、すっぽり体が包まれる。耳に届くのは先ほどと同じ心地よい音。違うとすれば、刻むリズムが少し早まっているということ。
 思わずゆるんだ頬を隠すように、空いてる両手を彼の背中へ強く回した。ちょうどいい相互関係が生まれてるのなら、なんの問題もないだろう。

相互的

(120425)


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