「おっかえりー!」

 妙に上機嫌な彼女に違和感を覚えて、言葉がつっかえた。そんな様子もお構い無しに、彼女はまだ靴すら脱げていない俺に飛びついた。勢いが良すぎて、玄関扉に頭をぶつけた。

「おっかえり、立向居くんのばかあ! ご飯もう全部食べちゃったから、ふははは!」

 支離滅裂な彼女からわずかに漂う酒気で、ようやく原因を理解した。約束の時間を大分過ぎた俺に痺れを切らし、彼女は色んな自棄に走ったのだろう。
 申し訳なさと、残念さと、甘えてくる姿への愛しさと、諸々の感情がぐるぐる混ざる。浮かんだ笑みは隠さずに、空いている手で彼女の頭を抱え込む。ギクリと彼女が固まったので、頬はますます緩んでいく。

「ただいま、なまえさん。遅くなってすいませんでした」
「え、いや、別にいいけど」
「パーティーはまた明日、やり直させてもらえませんか?」
「や、やらなくていいよ。それよりほら、立向居くんご飯食べよ」
「あれ、残ってるんですか?」
「だ……ってまだ、食べてないもん」

 シャンパンは飲んじゃったけど、と口ごもる彼女は、急に酔いから覚めてきたらしい。首に回していた腕をそろそろと緩め、控え目に胸板を押してくる。「準備する、から」あくまでも距離を取ろうとする姿に、どうしても笑いを禁じ得ない。「じゃあ、すいませんがお願いします」パッと頭を解放すれば、恨めしい顔で睨まれた。再び申し訳なさが沸いたので、もう一度、謝辞を述べようとしたら、にゅっと手が伸びてきた。

「んゆっ」
「今度遅刻したら罰金だからね。今日はこれで勘弁したげる!」
「ふみむぁひぇんいぇひひゃ」
「……変な顔!」

 ぶはっと吹き出して、まもなくなまえさんは台所に姿を消した。機嫌を直してくれたようで、何よりだ。
 挟まれた両頬をかるく撫でながら、ポケットに潜ませた小箱のことを考える。いつ渡そうかと悩みに悩んで、とりあえず今は、彼女を追って台所に向かうことにした。



こんにちはゆかいな



(111226/一日あうとなメリクリ)


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