(狼男な浜野と、猫娘の話)
頭でゆるゆると動く手に、悪い気がしない自分に驚いた。むしろ催促するべく自らすり寄ってしまう。一度だけ手は硬直するが、まもなく動きを再開した。
「なんか、変な気分」
戸惑いが見える声に、うっすらと瞼を開く。浜野が苦笑して私を見つめていた。
「動物の本能って、すごい影響力だよな」
「あんただって狼のくせに」
「つっても、人が飼ってる犬とは違うから。別に甘やかされた記憶はねえよ」
「甘やかしてあげようか?」
浜野の手が、動きを止めた。ふさふさした腕飾りに視界が遮られる。その手を持ち上げて、今度は首もとに移動させる。すり、と頬を寄せれば、彼は微妙な表情をしてうつむいた。
「……ちゅーか、絶対酔ってんだろ」
「そうかもしれない。またたびの季節になってきたし」
「しばらく俺以外の男に近づくの禁止!」
「あんたの毛並みは好きだけど、束縛されるのは嫌いよ」
寄せていた手を払いのけて立ち上がる。弾かれた勢いで顔を上げて、それでもやっぱり難しい顔をすぐに浮かべる。やがて浜野は頭を抱えて唸りだした。
「好きなのは毛並みだけかよぉ」
「そうね、今のところは」
「今のところっちゅーことは、可能性あり?」
「しーらない」
一つ微笑んでから、出口へ向けて方向転換。平然を装って、早足で外に出る。そうでもしなければ、千切れんばかりに振られていた尻尾に、飛びついてしまう所だった。
余裕でいたいの
(111109)