(※天使さまが地上にいる)







「相変わらず、下界の空気は汚いな」
「だなあ。もうちょい澄んでれば、おれらも過ごしやすいんだけどなあ」
「なんか悪いね、買い出しに連れて来ちゃって」
「んまあ別にいいさあ。暇潰しだよ、暇潰し」

 ウイネル、エルフェルと並んで町を歩く。天使と名乗るだけあって、どこか浮世離れした雰囲気の彼らは、通りかかる女の子の視線を一身に浴びていた。
 エルフェルはたまに手を振って視線に応えるが、隣のウイネルに「俗っぽいぞ」とたしなめられるばかり。ウイネル自身は、女の子たちには目もくれない。

「もったいないなあ」
「なにが?」
「あんたじゃなくて、ウイネルだよ。もっと愛想よく笑ってみりゃいいじゃん。どうせ行きずりだけの関係なんだし」
「何故おれが媚びへつらう必要がある。それこそ、行きずりの人間に」
「媚びときたか、天使さまは手厳しいね」
「まあウイネルはしっかり者だしなあ。セインもエカデルも、他の奴らもそんなんだし。愛想がいいのって、おれかサキエルぐらいだと思うぞ」
「そんなもんかあ」
「そんなもんさあ」

 へらへら笑うエルフェルにつられて、私もへらり、笑い顔を浮かべた。性格のゆるい彼は、セインたちに比べて大分接しやすい。会ったことのないサキエルさんも、きっと楽しい人なんだろうなあ。
 不意に、おい、と不機嫌なお声がかかる。ふり向いたら、呆れたような、苛立ったようなウイネルが私を見下ろしていた。

「宿舎にはまだ着かないのか」
「もう少しかかるよ。あと十分くらい」
「そんなに排気を浴び続けるのは、我慢ならないな。飛んで帰るぞ」
「え、でも私飛べない、」
「エルフェル、荷物を持て」
「へいへい。お前ってほんと、せっかちだねえ」

 狼狽える私の手から荷物を取り上げ、エルフェルがにししと笑う。「大人しくしとけよ」何の話だ、と問い詰めるより早く、体に感じた浮遊感。そして、ウイネルの顔がやけに近い。
 唖然として見上げると、彼にしては珍しく、意地悪な顔を浮かべた。

「その間抜け面を早くしまうんだな。舌を噛んでも知らないぞ」

 次の瞬間。私はぐんと、空に近づいた。
 驚きのあまり叫んだら、うるさいと、羽を広げた天使さまに一喝された。



たいやき王子と空中飛行



(110919)


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