(不動→女の子→鬼道)
尻尾みたいな髪を揺らして、なまえが口にするのは九割方「鬼道さん」のことばかり。時々混ざるほかの友人の話なんて、ほんのオマケ程度でしかない。鬼道さんが、と浮かれた声が耳を掠める度に、深く沈んでいく胃の腑。思わず、舌打ちをした。
「なに怒ってるんですか、不動さん」
きょとり、無知な丸い瞳が瞬いて、俺の神経をよけい逆撫でる。中途半端に気づくくらいなら、いっそ全てに気づけばいい。そうして何かが崩れたとしても、きっと俺は楽になれる。なれる、はずなのに。
「……なんでもねえよ」
唯一の逃げ道から遠ざかるのは、紛れもない自分だった。胸に燻る感情に蓋をして、素知らぬ顔してこいつに近づき、涼しい顔で嫌な話に身を浸す。そうまでして、求めるべき居場所なのか。自分でもよくわからない。ただ。
「変な不動さん」
「あァ?」
「いっつもそれくらい大人しかったら、もっとモテるんじゃないですか? モヒカンだけど、顔だけはいいんだし」
ま、鬼道さんには及びませんけど! 鬼道さんと不動さんだと確実に埋められない差がありますし? 学園の有名人と不動さんって言ったら、あれですよあれ。月とニッポン!
得意気に胸を張って、なまえはいかに「鬼道さん」が素晴らしく、いかに俺が悪質かを語り続ける。内容が内容なだけに多少ムカつきはすれど、悪戯っぽく笑うその無邪気な姿には俺もつられて笑ってしまう。これはよほど重症だ、思わず右手で口を覆った。
何故か明るい顔をしたなまえから視線を逸らし、わざわざ大仰にため息をついてしまう。するとちょこんと首を傾げたので、そのまま拳で小突いてやった。
「月とスッポンだ、馬鹿」
つれない態度に
(恋をした)
(110711)