――なんてことだ。
 倉庫の扉を開いたとたん飛び込んできた光景に、私は目を見開いた。横から横に飛び交う金属や野菜類。逃げ惑う人々。追いかける園長。彼は今まさに鬼の形相でかけずり回っていた。

「あら、おはようなまえちゃん」
「あ、おはようございますウワバミさん。一つお聞きしてもいいですか」
「どうぞ?」
「園長はこれ以上経営を悪化させるつもりなんですか」

 至極真面目に問いかければ、ウワバミさんは柵にもたれかかって僅かに苦笑。「どうなのかしらね」と、こんなときでも大人の余裕は崩れない。引っこ抜かれた看板に悲鳴を上げている大上さんとは大違いだ。でも本当にこのままでいいものか。これらの修理費を思うと、悩みどころである。

「んぎゃあああ!」
「あれ、華ちゃんだ」
「あらあら、また園長の餌食になったのね」

 阿鼻叫喚の中から轟く叫びへ首を回せば、私の相方、もといもう一人の飼育員、華ちゃんがいた。今日はうつ伏せに踏み潰されている。両手両足を動かして、なんとか逃げようと試みているらしいが、無駄な足掻きだろう。ばったばったと暴れる様は、釣られた魚によく似ている。思わず、笑みが浮かんだ。

「かわいいなあ、華ちゃん」
「え、この状況でいう言葉?」
「いや、いつも可愛いと思ってますけど、なかなかタイミングがなくて」
「そういう問題じゃないと思うけど……まあいいわ」

 ウワバミさんが細く、ほそおく息を吐く。毛先の蛇たちもなんだか微妙な顔で揺れていた。どうしてだろう。よくわからずに笑っておいたら、ウワバミさんが顔を強張らせた。あれ、失敗だったかな。

「と、とにかく! いつもみたいに、早く園長たちをどうにかしてくれる?」
「はあい、了解です。ウワバミさんもちゃんと来てくださいね」
「もちろんよ」
「助かります」

 ゆるく敬礼を返して、がらがらとカートを押していく。逃げ惑う内のいくつかの瞳がこちらを向いた。園長と華ちゃんは、まだ気づかない。兎の嗅覚ってそんなに強くないのかなあなんて思いながら、私は園内に響き渡るよう肺いっぱいに息を吸った。

「みなさーん、ごはんですよお!」



ハロー、マイホーム



(110509)


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