「あ、壁山」
「あ、なまえさん?」

 街中で知り合いと出くわした。嫌でも目立つその巨体を見上げれば、あちらも私を見下ろした。まんまるい目がぱちぱちと瞬く。見た目に似合わず、かわいい仕草だと思った。

「こんなとこで何してるんスか?」
「見ればわかるでしょ。買い物、ってかおつかい中」
「大変ッスねえ」
「壁山は何してんの?」
「おれッスか? おれも買い物ッスよ。自分用の」

 ほら、と壁山が袋を掲げた。中から覗くのはお菓子の袋、お菓子の箱、お菓子の缶。まさにお菓子の詰め合わせだ。ちょっと羨ましくなって「いいなあ」と素直にこぼしたら、慌てて袋を隠された。半眼になって壁山が私を見やる。

「あげないッスよ」
「えー!」
「えー! ってなんスか、貰う気満々だったんスか!」
「一口くらいくれるかなって期待してたのに!」
「なんでッスか!」

 大きな体をぶるんぶるん揺らして、壁山は文字通り「全身全霊」で否定した。そこまでやらなくったって良いじゃないか。思わず口が尖る。けれど壁山は既にそれどころじゃないらしく「とにかく!」と声を荒げた。

「おれはもう帰るッス。なまえさんはおつかい頑張ってくださいッス」
「えー」
「だから、えーってなんなんスか!」
「これからもっといっぱい買わなきゃいけないんだけどなあ。壁山手伝ってくんないかなあ」
「なんでおれが……」
「お菓子買ったげるよ」
「ぜひお供します!」
「よっしゃあ!」

 私も壁山も、違った意図を持ってガッツポーズを決める。それから、目的地がある方角を指し「あの夕日に向かって走るぞ壁山!」叫ぶ私に、「はいッス!」頷く壁山。
 こうして道端でわいわい騒ぐ私たちは、道行く人からほほえましげに見られていたとか。翌日、遠目に見てたらしい半田が教えてくれた。



恥を知れ!



(110419)


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