「いただきまー」
「す」
「え?」

 ぱくり。目の前にあったどら焼きは、すこし右にずれて、きれいな三日月型に切り取られた。あまりにも急な出来事に言葉をなくしていたら、ぷっ、と誰かがふき出した。

「そのまぬけ面、なんとかしたら?」

 反射的に睨みつければ、相手は「おお、こわい」なんてわざとらしく肩を竦めた。けれど、お気に入りの帽子から覗く目は笑っている。ちくしょう、その帽子かっぱらってやろうか。

「人のもの勝手に食べないでよ、マックス!」
「あれ、これって君のだったんだ? 気づかなかったなあ。名前ちゃんと書いた?」
「どら焼きのどこに名前書けっていうの!」
「表面に判でも入れてもらえば? それか、今度からはもう少し緊張感を持って食べるといいよ。ボクみたいなやつに盗られないようにさ」

 言うが早く、マックスは私の手からどら焼きをひったくってしまった。そのまま、ぽいと放られた三日月は、きれいな放物線を描いて彼の口内に着地。反抗する隙もなく、私のおやつはヤツの腹に消えてしまった。
 ぷるぷると震える空っぽの右手。その指を一本ずつ折り込んで、握り拳を作る。そのまま、力いっぱい机を叩きつけた。

「今すぐ吐き出せえええ!」
「いや、無理だから」



日常茶飯事



(110308)


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