※男主








「もー、なまえくん?」

 いらいらと、秋が俺を呼ぶ。きっと眉間にはひどく皺が寄ってるに違いない。

「狸寝入りしてるなら、私、先に行っちゃうよ?」

 体が揺さぶられて、俺の中にぼんやりと意志が生まれる。置いてかれんのは、やだなあ。そう思ったら、自然と手が動いていた。

「……ひでーなあ、秋。ちょっとくらい、待ってくれたっていいじゃん」

 言いながら、体を起こす。しばらく伏せっぱなしだった上半身は、起き上がりと同時に微かに軋んだ。
 寝みいな、と大口開けて欠伸をこぼしていたら、ねえ、と秋が声を震わせた。

「えっと、この手は……」
「手? 手がどうした」
「だから……ああもう! この手、放してくれないと行く準備できないよ!」

 視線を少し下にずらせば、ぎくりと、肩が竦んだ。個人的には服か何かを掴む予定だったのだが、俺の右手は、無意識のうちに秋の左手を握りしめていた、らしい。かあっと、耳が熱くなった。

「あわっ、わりい!」
「別に、いいよ。そっ、それよりほら、早く支度支度!」

 部活のときみたいに、両手を鳴らして俺を急かすしっかり者のマネージャー。しかし、見れば彼女も、ほんのりと顔を赤らめている。それを夕陽のせいだと言い切れない俺は、荷物を鞄に詰めながら、何度か深呼吸を繰り返したのだった。



天然ヒーター



(110217)


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