「おい!」
腕を掴まれて、ぐっと力強く後ろに引かれた。よろけた身体は転倒することなく、何か暖かくて固いものにもたれかかる。呆然と目を瞬かせると、頭上から大袈裟なため息が聞こえた。そうっと、首だけ後ろに向けた。
「おっまえ、ほんとどんくせえなあ!」
「……」
「礼くらい言ったらどうだ」
「え、あ。ありがと、う?」
「なんで疑問系なんだよ」
私の腕を放すと、染岡はそのまま額に手をついた。大袈裟なため息をもう一つ追加して、半眼になって私を睨む。いや、たぶん本当は見てるだけなんだろう。こいつは幾分目付きが鋭いから、凝視されると睨まれた気分になってしまうのだ。
そんなまなざしも慣れたもので、私はぼんやり染岡を見返す。手に持つタオルとボトルに気付いた染岡は、未だ動かない私からそれを取り上げると、さっさと横を通り過ぎた。釣られるようにゆっくり向き直って、皆の輪の方に去って行く背中を目で追う。いつもと同じ背中なはず、だけれど。
「そめおか!」
「あ?」
とっさにユニフォームの裾を掴めば、染岡は怪訝な顔でふり返った。悪目立ちするピンク頭だとか、ちびっこが泣いて逃げ出しそうなこわもてだとか。そんなこと全部忘れて、私は必死に真面目な顔を浮かべた。
「どうしよう染岡」
「は? 何がだよ」
「今ちょっと、本気でときめいた」
結局我慢できなくて、ついニヤけた顔で言い切ったら、ふざけんなテメエ! と顔を真っ赤にして怒られた。いやだから、本気なんだって。
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