歩くたびに前後に振れる彼の腕を見て、じんわり顔が熱くなる。手を伸ばせば届く距離にあるけれど、気持ちとしては、そう簡単に掴み取れない。自分の手のひらを開いては閉じ、握っては広げて。

(つなぎたいなあ……)

 ぼんやりと浮かんだ願望に、気温と反比例して体温はますます上昇していく。自家発電で暖がとれるなら、冬の散歩も楽なものだ。とはいえ、その方法が方法なだけに、ただならぬ羞恥心を堪えなければならないのだが。

「なまえさん?」

 数歩先を歩いていた立向居くんが、不思議そうにふり返る。心の内を見透かされたかと思って、ぎくりと肩が揺れた。

「な、なに?」
「足、止まってますよ。疲れましたか?」
「ううん、大丈夫だよ」
「あ、そうだ。そっちの荷物も、俺が持ちますよ。それで早く帰って休みましょう、ね?」

 立向居くんがにこりと笑って、空いてる左手を差し出した。その手が求めたのは、私ではなく、荷物。ぐっと、言葉につまった。
 マフラーから覗いた彼の鼻が、ほんのり赤く色付いている。よく見ればむき出しの耳も赤い。寒いんだろうなあ、そりゃ早く帰りたいよなあ。私だって帰りたい気持ちはあるけれど、差し出された手を見て、うずうずと手が開閉をくり返した。
 どうしよう、かなあ。

「たちむかいくん」
「はい?」
「あのさ」
「はい」
「……えーっと」

 私はきっと挙動不振に見えたんだと思う。立向居くんが困った風に首を傾げた。うう、と喉を鳴らして、ついに私は空いてる右手を宙に浮かせた。
 そのまま、ぎゅうと彼の出した手を握りしめる。キーパーグローブをしていない手のひらは、すごく冷たかった。えっ、と立向居くんの声がうわずった。震える喉から、無理矢理言葉をしぼりだす。

「か、帰ろっか」
「うあ、は、はい!」

 歩き始めても、会話は続かなかった。繋いだ手から伝染する互いの体温に、緊張はどんどん高まって行く。自分でもわかるくらい、耳と顔が熱い。手だって、さっきの比じゃないくらいほてってる。自分から手を取ったものの、じわじわと浮かび始めた汗に繋ぎ目を解きたくなってしまった。ちょっとだけ、握る力を緩めた。

「あのっ、なまえさん!」
「はっ、い!」

 慌てて顔を上げたら、顔を真っ赤にした立向居くんが眉間いっぱいに皺を寄せていた。思わず一歩身を引いたら、逃げられないよう、握った手に慌てて力がこめられた。
 ええと、あの、とあちこちに視線を泳がせる立向居くん。私も、さっきはこんな感じだったのかな。
 終いには一度大きく息を吸って、吐いて。立向居くんは、へにゃりと気の抜けた笑みを浮かべた。

「ちょっとだけ、遠回りして帰りませんか?」

 ぎこちなく頷いた私は、一体どんな顔をしていたんだろう。とにかく、胸がいっぱいで仕方なかった。



ぬくもりにくわれる



(110127)


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