目標補足、距離確認。ターゲットは相変わらず無防備なまま。こちらの準備は万端、あとは突撃するのみ。すうと一呼吸いれて、腰を屈める。さん、に、いち。発射。

「どーもーんっ! おっはよーう!」

 ターゲットもとい我が友人、土門飛鳥に私のタックルが見事に命中する。潰れたカエルみたいに呻いた彼の細腰に、私はそのまま腕を回した。ぎゅうっと力一杯抱き締める。ああ、幸せ。

「ばっかなまえ! 早く離れろ!」
「やだー」
「やだじゃない! お前、何やってんのかわかってんのか!」
「わかってるさ。土門の腰を堪能してんだよ」
「うっわ変態くせえ!」
「仕方ないじゃん! 土門の腰、すっごい腕にフィットするんだもん! ほんと好き!」
「っ、んのなあ……!」

 呆れを通り越した苦い顔のまま、土門は力ずくで私を剥がしにかかる。けれど私も負けじと腕に力をこめて対抗するから、けっきょく、苦しさか何かで顔を真っ赤にした土門が折れた。腰にくっついた私をそのまま引きずって、とぼとぼと昇降口へ向かう。

「あのさ、お前、こんなことして恥ずかしくねえの?」
「やだなあ土門、知らないの? 外国ではハグが挨拶なんだよ。だから普通、ふつう」
「でもここ日本だからな。外国じゃないからな」
「えー、帰国子女が細かいこと気にすんなってー」

 ぴたり、土門が足を止めた。次々と他の生徒に抜かれて行くにも関わらず、一寸も動かない。どうしたのかと顔を上げるも、完全に前を向かれたせいで、ちっとも様子が窺えない。けれどため息が一つ、耳に届いた。

「……あっそう。そういうこと言っちゃうわけね。だったらこっちにも、考えがあるぞ」
「え」

 その不穏な言葉に気を取られたのが、今回の私の敗因だろう。気が緩んだ一瞬のうちに、思いっきり左腕を引かれて、土門の前に踊り出る形になる。けれど間もなく肩を捕まれ、ぐるっと反転。顔が近いと思った直後、ふに、とやわらかい衝撃が頬に触れた。思考が停止する。
 それはすぐに離れたけれど、もっと早く、頬に熱が集まっていく。開いた口が塞がらない。そんな私を見て、土門がしたり顔を浮かべた。

「なっ、ななっ…何、なんで、何して……!」
「やだなあなまえ、知らないのか?」

 チッチッ、と土門が指を振るう。呆然とする私をさしおいて、得意満面にこうも続けた。

「外国では、ほっぺにキスも挨拶なんだぜ。だから普通、フツー」



欧米か!
(ここは日本だばかやろう!)



(110116)


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