大した感慨もなくスイカを模したアイスバーを咀嚼していたところで、ずしりと、背中に重みを感じた。開いた窓から垂れこむ温風が髪を弄ぶのと同じくして、後ろの彼ももそもそと首筋で顔を揺らした。
「士郎ー、あついよー」
本来感知すべき温度よりも上昇してゆく私の体温。先ほどまで頬を伝っていた汗も急に引っ込み、別種の汗が背を伝い始める。実際は暑い寒いの問題ではなくて、ただ単に、私は恥ずかしいだけだったのだ。
「ふふ、そうだね。暑いなあ」
「っく……すぐったいからそこで笑うな!」
「あ、ごめん」
くすくす、彼が小刻みに揺れるとどうしようもなく顔に熱が集まった。というか今の私、絶対土臭い上に汗臭いはずだ。さっきまで守たちと一緒にグラウンドを駆けずり回っていたのだから、同様の不快感が身体に表れていても当然だろう。
冷静に回転を始めた頭のおかげで、私の体温は徐々に徐々に冷えていった。極寒の極地にて冷蔵庫へ押し込まれたような、そんな恐怖。私は士郎をふり払うべく、片膝立てて立ち上がろうとした、のに。
「なまえちゃんって、いいにおいがするね」
首筋にかかったひんやりとした息。そのくすぐったさに耐え兼ねて、身体から力が抜け落ちた。
すずしくなあれ
(北の狼が笑っている)
(2010)