※男主で八神さん












「また、喧嘩でもしたのか」

 淡々とした言葉に顔を上げると、八神さんの鋭い目が俺を見下ろしていた。高潔ぶった黒マントを羽織る彼に、河川敷なんて場所は似合わない。ぼろ雑巾みたいになった俺も、並ぶに値しない。
 だから現在この場に並んだ異様さと、指摘された内容に、俺は唇を歪めた。

「また、って言い方やめてくださいよ。今日はたまたまふっかけられただけです。別に、俺が売ったものじゃありませんからね」
「きっと間接的な怨みでもあったのだろう。きみは賢い子だから、いつでも上手く立ち回っていると思っていたんだがな」
「買い被りすぎですって。ああそうだ、八神さんの欲しがってた情報、手に入りましたよ。あとでパソコンにでも送っておきます。それじゃあ俺は、」

 立ち去りかけた手首が、ぱしりと捕まれる。
 反射的に跳ねた肩が、怯えた風で忌々しい。自分の失態に胸の内で舌打ちして、表はなるべく、真摯な表情を作り上げた。「どうしました」失礼のないように、けれど突き放すように問いかける。
 彼の瞳は、いつも通り揺らいだ。

「やり方を、少し見直したらどうだ」
「……それは、どういうことですか。今の俺の働きに、何か不足があるということですか」
「そうじゃない。いくら正義という名分があろうとも、きみのやり方はただ、きみが傷ついていくだけじゃないか」

 ゆら、ゆら。
 何かと重ねて俺を見る目。それはずいぶんと、居心地が悪い。
 たゆたう空気に惑わされないよう、俺は静かに俯いた。僅かに増した手の力に抵抗して、きっぱりと、彼を言葉で突き放す。

「俺は、あなたのお役に立てれば、何でもいいんですよ」

 そうでもしなきゃ、自分の居場所がわからなくなるんだ。



スガリズム

(自分だって同じ癖に、人の心配なんてしないでください。あなたはただ、自分の正義を貫いてくれればいいんです。だってね、そうしたらそれが俺の道標になるんですから)



(120215)



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