どっさり。
 山と積もったプリントを越えて、だらしなく頬を緩めた浜野を睨む。悪びれた様子もなく、やつは頭の後ろで手を組んだ。

「委員の仕事、手伝ってくれるよな」
「なんでもっと早くから取り掛からなかったのよ。明日までとか信じらんない」
「部活ばっかですっかり忘れてたんだって」
「せめて私に押し付けとけば良かったのに」
「俺も委員で、お前も委員だしさ。片方だけがやるってのも不公平じゃん。ま、タイミングよく二人とも時間ができたんだし、仲良く片付けるとしよーぜえ」

 こいつ、絶対わざとだ。
 そう踏んだ所で、浜野の不手際に気づけなかった私にも落ち度がある。「今度、なんか奢んなさいよ」適当な約束を取りつけて、大人しくプリントの山に手を伸ばした。
 浜野は上機嫌に鼻歌なんか歌いながら、私の前座席の椅子をひっくり返した。「もっちろん」にこやかに頷き、同じように手を伸ばす。

「ていうか、保健のしおりなんて誰が読むのかしら」
「やっぱ親じゃね?」
「あ、せっかくだしあんたも読みなさいよ。怪我の予防法とか書いてある」
「なになになまえ、俺のこと心配してくれてんの!」
「当たり前でしょ。ただでさえ人員不足なのに、これ以上減ったら試合に響くじゃない」
「ですよねー」

 苦笑して、あからさまに肩を落とす。「何しょぼくれてんのよ」思わず笑うと、浜野は口を尖らせて机に肘をついた。

「それ、他のヤツでも言うんだよな」
「まあね。事実だし」
「そーやって誰かれ構わず口説くの止めろって。心臓に悪い!」
「別に口説いてなんかないじゃない。勝手に反応する方が悪いのよ。まさに思春期って感じ?」
「だあからそんな話じゃなくて!」
「ちゅーか、」

 ぴっとプリントを差し出せば、浜野がぴしりと動きを止めた。目を丸くして、あんぐり口を開けている。「ちゅーか」小さく笑って、同じ言葉をもう一度繰り返した。

「無駄口はいいから、さっさと作業進めなさい」

 二、三度プリントを指で叩いて、机上に解放。相手は元々丸っこい目をこれでもかと見開いて、わなわなとうち震える始末。
 しかし次の瞬間にはすっかり顔を明るくして、嬉々として机に乗り出した。

「なんか、俺色に染まったって感じだな!」
「いいからさっさと働けっつってんでしょ」

 浅黒い肌に、容赦なくデコピンをくらわせる。そんな痛みも喜びには劣るようで、浜野は再び鼻歌を始めた。それをバックミュージックに、私たちは作業を進めていく。
 たまには、こんな空気も悪くない。



気まぐれ音頭



(111029)


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