ぬるくなったマグカップを両手に抱えたまま夜空を見る。あちこちに散らばる星に規則性なんか見当たらなくて、すこし、参った。
隣のヒロトを見れば、うきうきと望遠鏡を動かしてばかり。ときどき「見て、あれが北極星だよ」と私に観賞権をゆずるが、覗いたところで私にはなにがなにやら。とりあえず一言、「きれいだね」と苦笑すると、彼は何倍も嬉しそうなほほ笑みを返してくれた。ほんとうに、星が好きらしい。
「ねえ、楽しい?」
マグカップを回しながら、私は訊いた。
「もちろん」
望遠鏡をまた覗きこんで、ヒロトは静かに言った。
「きみと一緒に、星をみてる。それだけでもう、俺は幸せだよ」
口元にほんのり浮かぶ笑み。幸せいっぱいな彼にやられたのか、私の胸もほんのり温かくなった。
(仕方ないなあ、もうすこしだけ付き合ってあげよう)
ぬるいマグカップに口づければ、ぬるいミルクが流れ込む。それすらも、甘い。
(きっと冷めても大丈夫/111122)