カイくんにキスをされた。
 キスと言っても、頬に軽く触れるだけの挨拶みたいなもの。けれど私は物凄く驚いて、呆然とその場に立ち尽くしてしまった。「じゃあまた、あとでな」いつも通り、にこやかに彼は去った。私はしばらくそこに固まったままだった。

「仲がいいね」

 背中がひやりとした。極々まれに聞く、ひどく冷めた声。持ち主は確認しなくてもわかるけど、ふり向かずにはいられない。
 案の定、腕を組んでこちらを睨むシュウがいた。

「君たち、もしかしてけっこう親密な関係?」
「そんなんじゃ、ないよ」
「じゃあカイの片思いかな。それとも、君が誘惑してるとか……まあ、それは無理っぽいけどさ」

 くすくすと小刻みに肩を揺らす。楽しそうにしてるけど、目はちっとも笑ってない。シュウの言いたいことはわからない、でもその突き放すような態度は悲しかった。
 私はゆっくりシュウに近づいて、彼のユニフォームの裾を掴んだ。わけもわからず、叱られた子供のような気分になる。「……シュウ」寂しくなって名を呼べば、彼は静かに瞬いた。組んだままの腕がぴくりと動いたが、それきりだ。まもなく彼は、難しい顔を見せた。

「ごめん、気にしないで。どうせぼくじゃ、ダメなんだから」

 バカだよね、と彼は微笑んだ。何故か泣きそうに見えたその表情に、私の涙腺が揺さぶられた。


やすい安息も買えない子供
(だってどう足掻いても君を幸せにできないもの)

(111227)


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