(同じ行為を二人の視点で/微ネタバレ)







 シュウの手が伸びてきて、私の頬を撫でる。憂いを含んだ黒い目が、私を見つめる。中に映る私は、どうにも情けない顔を晒していた。
 彼は小さく、知らない名前を呟いた。ひどく慈しむような声だった。誰だろうと私が思考を巡らせるより早く、シュウの手が私の体を引いた。すっぽり、腕の中に収まる。

「私は、なまえだよ」

 最後の、悪あがきだった。彼が微かに震えていることにも気づいていたけれど、他の誰かと重ねて欲しくなかった。私は私なんだと、せめて彼には知っておいて欲しかったのに。

「もう少しだけ、このままでいさせて」

 否定を否定で塗りつぶした言葉に、諦めて目を伏せた。いつまで経っても、彼は私の中に誰かを見ている。動かせない過去に、私は毎日歯噛みするばかり。





‐‐‐





 手を伸ばして、なまえの頬をなぞる。震えた睫毛に鼓動が早まったが、迫る思いは後ろめたいものばかり。感情が伝染したように、なまえも悲しげに眉を下げた。

 無意識のうちに、妹の名を呟く。ぼくのせいで、幸せも人生も、何もかもをなくしたあの子。思い出せば思い出すほど、罪悪感がなまえを想う心を引き止める。
 あの子の全てを奪った癖に、自分一人が幸せになるなんて。けれど、高ぶる想いは確かなもので。ぐるぐる、ぐるぐる。考えをまとめられない脳は、救いを求めて彼女を引き寄せた。

「私は、なまえだよ」

 彼女が珍しく、しっかりと声を発した。離れたがっている声だった。近頃の彼女は、『自分』を主張するようになった。
 幸せを否定するわりに、ぼくは彼女が遠ざかるのが怖いらしい。震える腕で、抱き止める力を強くした。

「もう少しだけ、このままでいさせて」

 ぼくはどうすればいいのだろう。
 見つからない答えに、心がまた少し、黒く塗りつぶされた。


沈む
(誰かの代わりだと思い込み)
(自分の価値に苦しみ続け)
(見事なまでのすれ違い)

(シュウの存在が切なすぎる/111227)


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