(林間合宿のはなし)






「いぎゃああああ!」
「う、わっ」

 どうもみなさんこんにちは、みょうじなまえです。現在私たちは森の中にいます。真夜中の、森。肝試しなんてやろうものなら、確実にアレが出るであろう、森。まあね、私たちは悪魔と戦うお仕事ですから、幽霊程度じゃ誰もびびったりはしないものです。
 ではどうして私がこうも奇っ怪な悲鳴を上げるにいたったのか。理由は簡単、私は、虫が嫌いだから。

「ひぃぎゃああああ! むしっ、むっ、ぎゃっ、があああああ!」
「お、落ち着いてください、なまえさん」
「やっ駄目、む、むしむりぎぃいい、こねこぉぉおお!」
「わあっ、服、服破けますから」

 開始間もなく出会った子猫丸に早速助けを求めた私はいかがなもんだろう。虫豸といえども立派な悪魔。これが倒せないようでは、今後の任務など到底無理だと笑われるに違いありません。とはいえ、私はすでに、シュラ師匠と多くの悪魔に対峙してきましたが。
 さて、いつも冷静な子猫丸はといえば、騒ぐ私を背中に張り付けたまま、落ち着いて詠唱を始めていました。「――腐れに帰したり!」詠唱の締めが決まった途端、周囲を飛び回っていた虫豸の軍団は灰のように弾けて消滅しました。さすが、さすが子猫丸!

「うあああああありがとう子猫丸ううう!」
「もう、なまえさん……年頃の女の子が鼻水足らすってどないですの」
「だって、だってえええ」
「分かりましたから、ね。もう泣き止んだってください。僕らも一応ライバルなんやし、ずっと面倒みとるわけにはいかんのですよ」
「ふあい……」

 子猫丸の言うことは最もで、ぐずぐず鼻を鳴らしながら私も大人しく頷きました。確かに、いつまでも頼るわけにはいきません。けれど、袖で顔を拭おうとしたら、はい、と子猫丸はやわらかく笑ってハンカチを差し出してくれました。これはもう、涙腺が緩むのも仕方ないというものです。

「子猫丸、私、絶対にあなたのこと忘れないよ……!」
「死地に行くみたいな言い方せんといてください」
「もう、冗談なのに……とにかく、いろいろありがとう。でも、提灯は譲らないよお」
「僕の方も、全力で取りに行かせてもらいますわ」

 にひゃりと二人でゆるく笑って、私たちは同時に背を向けました。思考の方もだんだん落ち着いてきましたので、今度は初めから電気でも身に纏っておこうと思います。これで、しばらくは防壁として使えるでしょう。
 さてさて、最初に権利を奪取するのは一体誰なのか。不謹慎かもしれませんが、なんだかわくわくしてきましたねえ。



試合開始!



(110725)


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