(実写)
朝早く起きて、昼に小休憩、夜遅くに就寝。なんとも堕落したリズムにはまってしまった。
正常たる規則ではないくせに、生活習慣というものは、数日も続けばすっかり身体が覚えてしまう。だからこうして身体をよたつかせるのも、最近覚えた睡魔の誘惑にやられたせい。抗う術は、ない。
早くベッドに飛び込みたいという、願望のままに欠伸をする。視界の隅でちらつく黄色い車に気づかないふりをして、そのまま横を素通り。すると、激しいクラクションとラジオの叫び声に見舞われた。
『ちょっと待ってよ、挨拶もナシ?』
「うわあ、ごめんバンブルビー。見えなかった」
『この僕が目に入らないなんて、君の目は節穴か?』
『真に遺憾です』
機械特有の音を立てて変形する彼の目の前を、そそくさと通り抜ける。眠気の高ぶりと、先程のクラクションがずいぶん頭に来た。片手でこめかみを解しながら、ズボンのポケットに手を突っ込む。鍵はどこだったかな。
『今日はずいぶん冷たいのね。寂しいわ』
「ごめんね、ビー。人には優先順位ってものがあるの」
『君と僕の仲じゃないか』
『仕事と恋人のどっちが大事なの!』
「なんだかいろいろ間違ってる気はするけど、つっこまないよ私。今日は、本当に、ダメ。お願いだからわかってよ、バンブルビー」
黄色い巨人を子供のように諭すなんて、なんだか滑稽だ。けれどこのやり取りには私の自由がかかっている。彼の自由に協力できないのは非常に残念だが、時には、自分を優先したって構わないだろう。
ウィォオン、と音を立ててバンブルビーが悲しげに首を傾いだ。ごめんね、と手招きして、その大きな頭を撫でてやる。青い目が、間近で私を見つめた。
『だったら、こっちにも考えがあるぜ』
物騒な発言と、丸い眼は見事にミスマッチしていた。え、と驚く私を簡単に指で摘まみあげ、バンブルビーはその場で車に変形する。驚いて身を丸めた私は、気づけば車内の助手席に座らされていた。
『君をずっと待ってたんだ』
『ヘイ彼女、一緒に一走り行かないかい?』
なるほど。彼は彼で、自分の自由を取ったらしい。こうなると、彼の同意がない限り扉は開かない。つまり私は逃げ道を失った。「ビーってばあ」ため息をついて座席に凭れると、勝手にシートベルトを巻かれてしまった。
「もう、仕方ないないなあ。今日はとことん付き合ってあげる!」
八つ当たりも込めて力いっぱいヘッドを叩けば、陽気な音楽がそれに応えた。
イニシアチブ奪取宣言
(110802)