(TFA)






「お願いだから、どいてバンブルビー。掃除の邪魔しないで」

 眼前に迫り来る黄色い足を叩くと、青い瞳がキュイッと音を立てて細まった。オートボットにしては小さく、人間からしたら大きすぎる半身を曲げて、彼は顔を更に近づけた。

「邪魔? ボクがいつ君の邪魔したって言うのさ。何月何日何時何分何秒、地球が何回回った時か教えてくれる?」
「計る間もなく、現在進行形でお邪魔虫なの。子供みたいな言い訳はいいから、掃除機の先っぽ踏まないで。これじゃあ床を綺麗にできないでしょ」
「あーそう、そっかそうなんだ。なまえは喋って動けてイカしてるボクよりも、ただゴミを吸いとるだけの掃除機のほうが大切なんだね、知らなかったよ。ゴミとイチャイチャ? まさかそんな趣味があったとは」
「イチャイチャって……ねえバンブルビー、先が読めないんだけど」
「話は読めなくて当たり前。空気で感じて頭で理解するものだよ。あーあ、二人の愛の時間を邪魔してごめんね、お邪魔虫は去りますよーだ! バイバイ!」

 音を立てて乱暴に走り出す黄色い車に、私は呆けた。何怒ってんのよ、ほんとに。次いで、荒々しく吐き出された排気に激しく咳き込む。掃除機では、ガスを退かしようがない。
 その時、空を割いて手裏剣のようなものが真横を走った。旋回する刃に圧されて、瞬く間にガスが退いていく。煙の先から現れたらのは、黄色、ではなく黒いボディを持つプロールだった。

「大丈夫であるか、なまえ」
「プロール、っけほ、ありがと」
「構わないのである。まったく、あの小僧には困ったものであるな」
「ああそうだ。ねえ、バンブルビーが不機嫌な理由しらない?」
「知らんである」
「だよねえ」

 掃除機のスイッチを切って、私は首を傾げる。
 親友のサリが遊びに来なかったことが不満なのか。ボディーガードにも関わらず、彼女を守るべく一緒にいない私に不満があるのか。はたまた、別件に関する八つ当たりか。
 もしサリに関することならば、私の方ではお手上げだ。親子水入らずの誕生会を、よそ者の私が邪魔するわけにもいくまい。そのために、今日ばかりは、家政婦兼ボディーガードの仕事もお休みである。他の件に関するなら、話を聞いて、慰めてやれないこともないのだが。本人が部屋から消えた今、この作戦も不完だろう。

「なまえ、たまにはビシッと叱ってみるである」
「バンブルビーを? なんで?」
「君が甘やかす度に、彼はどんどん付け上がる。サリもまた然りである。君は確か、彼女の教育係も兼ねていただろう」
「私はあくまで家政婦なんだよ。そう易々と雇い主の子を叱れません」
「この間、菓子をくすねられて激怒していなかったであるか?」
「あれは、まあ、例外で」
「まったく。結局は、」

 目に入れても痛くないほど、サリが可愛いのだろう。
 プロールはたぶん、そんなことを言っていた。けれど、突如鳴り響いた甲高いクラクションに、彼の言葉は全て飲み込まれる。目を丸くする私たちの前には、ますます目をつり上げた黄色い彼がいた。

「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん! バンブルビーのお出ましだよ!」
「誰も呼んでおらんである」
「おおう、お帰りバンブルビー……」
「たっだいまー! なんて言ってる場合じゃなかった! どういうことなのなまえ、ボクはお邪魔虫でプロールは問題なし? あんまりだよ酷いよ、扱いの差にボク泣いちゃう!」

 巨体を揺らして抗議するバンブルビーから、隣で腕を組むプロールに視線を移す。「これってさあ」同意を求めて顎を向けたら、彼もため息をついて頷いてくれた。

「叱るだけ無駄である」
「ですよねえ」
「ちょっとちょっと! だからボクを置き去りにしないでってば!」



困ったちゃん
(構ってほしいだけなんだよお!)



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