(百合注意)
「噛みつくよ!」
冗談でしょうなんて、笑って流した私が悪かった。油断して背中を見せた隙に、後ろからがぶり。首を食まれた。
「いっ、たあ! 何すんのホァンちゃん!」
「先に宣言したでしょ。なまえに噛みついたんだ」
「宣言したからって噛まないの! それに私は許可してません!」
「別に訊いたわけじゃないもん」
ぷう、と頬を膨らます彼女は可愛い。可愛いが、甘やかすわけにはいかない。できる限り目をつり上げて、可愛いお鼻に指をつきつける。
「いい? 人は食べ物じゃないんだから、簡単に噛みついたりしちゃ駄目なの。わかる?」
「なまえは人間でしょ? ボクはちゃんと分かってて噛みついたよ」
「わかってるなら、なんで」
「知らない? こういう行為、マーキングって言うんだって」
「まーき……ん?」
「マーキング」
マーキングって、それ、動物的行動ならば辻褄が合う気もする、ってそうじゃなくて。誰だ。こんな純真な子に、そんな馬鹿げた言葉を教えたのは。
唖然とする私と、にっこり笑うホァンちゃん。未だ突き刺さる指を手にとって、彼女は得意げに歯を見せた。
「この印があれば、なまえはボクのものってわかるんだよ。だから、誰にも盗られないで済むんだって。すごいよね、マーキング!」
手を放して、ぎゅっと腰に飛びつくホァンちゃん。遠目に見るには、きっと微笑ましい光景だろう。だが、状況の当人としては、僅かな違和感が迫っている。
引きつった神経を働かせて、とりあえず、彼女の頭を撫でてみた。
「でもねホァンちゃん、私はあなたのものじゃないよ。っていうか、そもそも物じゃないからね」
「そんな逃げ台詞でボクが許すと思う?」
「うっ」
愛情表現:竜の子の場合
(大胆に攻めてくるようです)
(110826)