次は中央都市、中央都市――。
 車内アナウンスに、脳を揺さぶられた。まだぼんやりする視界を外に向ければ、見事なまでにビルが街を埋め尽くしていた。懐かしい光景だ。
 寝返りの要領で隣を見れば、本に落ちていた視線がこちらを向いた。「いいタイミングですね」栞を挟みながら、彼が言った。

「私、直感だけはいいから」
「そうですね。他は鈍いのに、直感だけはいいですもんね」
「喧嘩売ってる?」
「まさか。素直な感想ですよ」

 くすくすと肩を揺らして、彼は身支度を始めた。余裕ぶっちゃって、可愛くない。口を尖らせてそっぽを向いてやった。「怒らないでくださいよ」彼が、全く悪びれてない声で笑った。

「バーナビー、あなたタイガーと組んでから色々変わったって聞いたけど。性格の悪さは健在なんだね」
「あなたの反応が面白くて、つい。ごめんなさい」
「どうせ謝るなら、もっと感情こめて。ほらやり直し」
「またそんな子供みたいなこと言って……それよりもほら、早く支度してください」
「着いたらやるもん」
「それじゃあ遅いんですって。僕が一からやってあげないと駄目ですか?」
「自惚れ野郎はけっこうです。一人でできるから!」

 べっ、と舌を出して、彼の差し出した上着を奪い取る。すぐに、ほんのり温くなっていたそれに顔をしかめた。

「あっつ。どんだけ握ってたの」
「今さっき取り出したばかりですよ」
「じゃあ子供体温? 見た目に似合わず可愛いとこもあるんじゃない」
「違いますから。いつも手とか握ってる癖に、そんなこともわからないんですか」
「さあね、意識したことないから」
「そうですか。じゃあ、意識させてあげますよ」

 意地悪な仕返しのつもりが、更なる仕返しを生んでしまった。周りが寝てるのを良いことに、そっと、顔と顔が重なる。思わず、目をかっぴらいてしまう。数秒後、したり顔を浮かべて、彼は私から離れていった。

「どうです、子供体温じゃなかったでしょう?」
「知らんわバカ!」



やられたらやり返す



(110920)


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