意地悪を言ってるつもりはない。貶しているつもりもない。ただ素直に、彼女には「犬」という呼称がふさわしいと思った。
「言った本人にそのつもりがなくても、傷つく人はいるんですよ」
「君は傷ついてるの?」
「まあそれなりに。ペット扱いされちゃあねえ」
「そんなつもりじゃないよ」
「じゃあ、まずはこの手をどけてください」
ゆっくり撫でていた手を、ぱしりと払われる。名残惜しく頭を見ていたら、ちいと面倒そうに舌打ちされた。驚いて肩を震わせば、彼女はますます眉間に皺を寄せた。
「怯えるか愛でるかどっちかにしてください。混乱します」
「だって、撫でるなって言ったのは君だよ」
「言われるまで平然と撫でてたくせに、なんですかその代わりようは。情けないな」
「ご、ごめん」
「謝らないでくださいよ、もう」
膨れっ面で、彼女はそっぽを向いてしまう。僕は行き場をなくした手をさ迷わせて、しばらくしてから膝に落ち着かせた。
けれど彼女がほんのり顔を赤らめてることには気づいていたので、また後で、僕はそっと手を伸ばすのだった。
(なでる/110924)