(ヤマト隊長と後輩忍)








「オッサンくさいね、きみ」
「黙ってください。真性のオッサンに言われたくありません」
「酷いなあ、僕けっこう若いよ」
「私よか年上でしょ」
「まあそうか」

 ちゅるりと、ヤマトさんはラーメンをすする。既に食べ終えていた私は、楊枝を口に銜えるだけ。人が食べているものほど美味しくみえるもので、先ほど満腹を向かえたはずの腹が、ぐうと情けない音を立てた。

「オッサンくさい上に食いしん坊かあ。こりゃあ、いろいろ大変そうだな」
「よけいなお世話です」
「彼氏の前では、ちゃんと猫被ってるんだっけ?」
「……もう忘れてください。あんなやつ、とっくに別れました」
「あれ、ごめんね」

 謝る気なんてないくせに。ふん、と返事の代わりにそっぽを向いた。
 ヤマトさんはそれきり、いつも通りの無表情でラーメンをすすった。私は酒ではなく、水をぐびぐびと煽るだけ。任務がなければ、隣の存在を掻き消すべく思い切り浴びたのだが、非常に残念だ。

「ごちそうさま」

 律儀に両手を合わせて、目礼。看板娘がにこやかに笑って、彼から食器を受け取った。たくましく生きる彼女でも、ずいぶんと女の魅力が漂っている。
 私は楊枝を噛みしめて、羨望のため息をのみ込んだ。思いつく限りの思い出で感傷に浸るなんて、忍者にあるまじきこと。あんな男、本当はどうでもよかった。だから感傷なんて、今さら感じることでもない。

 そんな思考を遮るように、「さて」とヤマトさんは立ち上がった。私の視線が、その動作を追った。

「デザートでも食べに行くか」
「あなただって十分な食いしん坊じゃないですか」
「僕はいいんだよ、育ち盛りだし」
「いやいや、そんな若くもないでしょ」
「細かいねえ、きみ。ところで返事はないの?」
「え、今のお誘いでしたか? ただの一人言だとばかり」
「女の子のエスコートは慣れてないんだ。でも、優しくするだけなら得意だからさ。奢ってあげるよ」

 ここの勘定を払い、そのまましたり顔で財布をふるヤマトさん。食べ物で女をほだそうなんて、ずいぶんちんけな発想だこと。
 しかし、気が紛れるなら何でもいいかという思考の下、「仕方ないですね」と私も席を立ち上がった。珍しく上機嫌な彼が気になったとか、そんな理由は決してない。



(花よりだんご/110927)


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