むぐむぐと唐揚げを口につめる子猫丸を見て、だらしなく目尻が下がっていく。可愛いなあ、可愛いよなあ子猫丸。どきどきと鼓動は早まるが、決して甘酸っぱい作用ではないことはしっかり理解している。
 自分の弁当も忘れ呆けていたら、「あ」と急に子猫丸が顔を上げた。円らな瞳とぱっちり交わる視線。

「あのう、なまえさん?」

 子猫丸の優しい声に呼ばれて、自分でもわかるくらい顔が明るくなる。もしも私に燐のようなしっぽがあったなら、ぱたぱたと機嫌よく揺れているに違いない。

「なになに、子猫丸! 私の唐揚げあげようか!」
「いえ、大丈夫です。せやけど、その唐揚げが……」
「うん?」
「……のうなっとりますよ」

 彼の発言を理解しかねて、私は自分の手元を見つめた。最初に手をつけた惣菜コーナー以外は、整っているはずのお弁当箱。はたと、視線が左上に止まる。ぽっかりと空いた空間には茶色いカスだけが散らばっていた。
 顎が外れるかと思った。

「なななななんで! 私まだ食べてないよね、ね、あれ? 食べたのかな、どうなんだ?」
「さっき奥村くんが手ぇ伸ばしとったけど、気づかへんかった?」
「燐が? 何それ知らん!」
「あれまあ」

 ちょこんと首を傾げて、子猫丸は仕方ないとでも言いたげに微笑んだ。可愛い仕草にまたもや心が癒されて、眉間に寄るはずの皺もゆるく伸びた。
 でも唐揚げ食べたかったなあ、食べたかったけど子猫丸可愛いなあ、和むなあ、でもやっぱりお腹空いたかもなあ。なんて、燐への恨み、子猫丸へ愛情がぐるぐると頭の中でかき混ざる。負の方へ傾きかかる天秤を意地で持ちこたえようとしたら、子猫丸が再び私を呼んだ。

「よかったら、僕の唐揚げあげまひょか」

 なんの心配もいらない。天秤は、聖なる方向へぶち切れた。



困ったときはお互い様



(110708)


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