眼下で続く光景に思わず舌打ちをこぼす。隣の秀が肩を跳ねさせたが関係ない。重要なのは、あくまで目下、下の道路にて繰り広げられるやり取りだ。
「ごめんね氷浦くん。荷物持ち手伝ってもらっちゃって」
「あいつ……と、約束し……た、ので。仲間は、助けろ……と」
「そっかそっか、ありがとうねえ」
大きなビニールの袋を引っ提げて、和やかに会話するなまえと氷浦。氷浦は何も考えてないとして、なまえは一体どういうつもりだ。氷浦は正式に派遣されたかどうかも怪しい輩で、尚且つ化け物並の戦闘力があって、烏森町で今一番怪しいランキング第一位に属するような奴なのに。なんで、なんで。
「二人で散歩とかまじありえねえ!」
「落ち着いて閃ちゃん! 二人にバレちゃうよ!」
人差し指を唇に当てて、秀が俺を宥める。その仕草がよけい癪に触ったので、とりあえずこめかみに爪をぶっさしてやった。必死に声を押さえてのたうち回る秀を一睨みして、俺はすぐに見張りに戻る。
なまえは相変わらず、へらへらと眉尻を下げていた。夜行の誰とも、ましてや墨村、雪村の両家に向けるのとも違う氷浦への接し方。敢えて言うなら、墨森家末子の利守への接し方に似ている、が、確実に何かが違う。それに俺の腹が妙に煮えくり返った。
「大体な、あいつも良守も考え方が甘いんだよ。氷浦が悪そうに見えないだあ? そんなの、本性隠してるだけに決まってんだろうが!」
力いっぱい足元の瓦を叩いたら、当然のように痛みの波が返ってくる。じわりと滲む視界。ちくしょう、無機物にまで馬鹿にされた。
秀の能力で引き続き盗聴を続けるが、内容は至って普通。なまえの腑抜けっぷりと、氷浦のとんちんかんっぷりが筒抜けになるだけ。爪で瓦を小刻みに叩けば耳障りな金属音が鼓膜を揺らす。それすら俺を苛立たせる材料となり、もう一度、大きく舌打ちをした。「ねえ閃ちゃん」控えめに、秀が肩を叩いた。
「あ? どうした、ちゃんと会話聞いてろよ」
「うん、それに関しては大丈夫だから」
「じゃあ何だよ」
「いや、もしかして閃ちゃん、氷浦くんにやきもち焼いてるのかなって」
びしぃ、と全身に衝撃的が走る。秀はにやにやと口角を持ち上げている。覗いた牙が意味もなく輝く。何かを期待するその視線に、とうとう、俺の中で何かが切れた。
「ふっざけんなてめぇえええ!」
愛すべき馬鹿
(なんで俺の周りは馬鹿ばっか!)
(110628)